2012年3月23日金曜日

第2章 働く場としての京都大学 | 意識・実態調査 | 京都大学男女共同参画資料室


2.1. 家族形成と仕事

教職員にとって京都大学は働く場である。しかし、生活は仕事からだけ成り立っているのではない。本章では、京都大学で働く教職員が、仕事と生活全体との折り合いをどのようにつけてきたのかを、まず見てみたい。性別によって、また教員と職員の別や勤務形態によって、違いはあるのだろうか。家族をつくるだけが生活ではないが、とりあえずどれだけの人々が配偶者や子どもをもち、どのような家族形成をしているのかを見てみよう。

2.1.1. 配偶者の有無

Q6 では、配偶者の有無について尋ねた。婚姻届の有無には関わらないと注釈をつけてある。基礎集計表によると、配偶者がいる割合は職員では女性44.9%、男性68.8%、教員では女性61.3%、男性82.8%と、女性より男性、職員より教員の方が有配偶率が高い。これら4 つのグループについて、有配偶率の年齢による変化を示したものが図2-1-1 である。女性か男性かに限らず、教員は意外に「早婚」であることが目を引く。大学院時代の20 代で配偶者を見つけることが、ままあるのかもしれない。20 代では職員か教員かによる違いは大きいが、性別による違いは目立たない。

しかし、加齢による変化には、性別による違いがはっきり表れる。男性は、職員・教員の別にかかわらず、加齢と共に順調に有配偶率を上げていく。60 代で逆転されるまでは男性教員の方がつねに男性職員より上にあるが、一方的上昇というパターンは変わらない。それに対し、女性職員、女性教員は複雑なパターンを示す。女性職員の場合は、30 代以降、有配偶率が上がらず、ほとんど横這いである。結婚ないしは出産退職する人たちが3、職場から退出していくことの統計的結果と思われる。これに対し女性教員の場合は、男性とはレベルの差があるものの50 代までは上昇するが、60 代では逆転して下降している。いったん就職した女性教員は結婚・出産退職しないということだが、では60 代での下降はなぜなのだろうか。

女性研究者の婚姻率についての同様の屈曲パターンは、塩田・猿橋(1984)でも報告されている。当時は実に30 歳をピークとして、それ以上の年齢では早くも低下していた(塩田・猿橋 1984:p.16)。この屈曲パターンを説明するには、世代(cohort)による違いを考慮しなければならない。20 年前には30 代がピーク、現在は50 代がピークというのは、世代の特徴が続いているということだからだ。ある世代までは女性が研究者になるなら未婚を貫くのが普通とされたが、その後は女性研究者も結婚していい時代になったと言われる。有配偶率の屈曲はそうした規範の転換を反映しているのだろう。もっとも「転換後」の世代が現役の大半を占めるに至った現在も、男性研究者との有配偶率の差は依然として大きいのではあるが。

なお教員の場合、文系か理系かという分野の違いにより、有配偶率に差がある。しかもその関係は性別によって反転し、男性では理系の方が低いのに対し(文系91%、理系79%)、女性では理系の方が高い(文系56%、理系65%)。一般に理系分野の方が拘束時間が長いと言われるが、労働条件が有配偶率の唯一の決定要因ではないことが推察される。本調査には含まれていないが、より掘り下げた分析のためには、「結婚を望むかどうか」「どのような結婚なら望むか」といった意識要因の分析も必要であろう。


3 本調査では分析できないが、結婚・出産退職する女性職員は補佐員が多いと言われる。他方、育児期を終えた女性が補佐員として新しく雇用されることもある。

さて、教員は職員よりも配偶者をもっていることが分かったが、それは必ずしも教員が「普通」の家庭生活を送っていることは意味しない。Q7では配偶者がある者に対して、配偶者と同居か別居かを尋ねている。基礎集計表によると、別居の割合は、女性教員では25%、男性教員では11%にのぼり、同性の職員の割合(女性9%、男性6%)を大きく上回っている(図2-1-2)。大学教員は単身赴任や別居婚が多い職種だと言われているが、それが裏付けられた。とりわけ女性教員では配偶者がいても4分の1 は同居していない。職員でも女性の方が別居婚の割合が高い。大学は(特に教員、女性にとって)別居婚の多い職場だという認識が必要である。

2.1.2. 子どもの有無

次に子どもの有無について見てみよう。Q9 の「子どもあり」の割合は、女性職員33.9%、男性職員56.3%、女性教員40.3%、男性教員63.5%である。そもそも前述のような有配偶率の違いもあり、子どものいる割合は男性の方が高い。「子どもあり」の割合を年齢別でグラフにしたのが図2-1-3 である。配偶者の有無を示した図2-1-1 と比較すると、女性の場合、有配偶率のグラフでは教員が職員を上回っていたが、「子どもあり」の割合では逆転しているのが目を引く。とりわけ50 代以上の女性教員は、他のグループに比べて「子どもあり」の割合が著しく低い。女性教員は結婚はするようになったものの、出産をコントロールすることで、家庭の負担を軽減してきたものと推測される。子どもを産んだ場合でも、女性教員では一人っ子がもっとも多い(基礎集計表Q9-2)。これに対し女性職員は、結婚後も退職せずに職場に留まった場合は、現在50 代以上の世代でも子どもを産み育ててきた。女性教員と女性職員は、家庭と仕事との折り合いをいかにつけるかに苦慮してきたのは同じとしても、それに対処する戦略が違っていた。とはいえ、その世代でももちろん出産した女性教員もいた。現在60 代後半の世代を中心として、乳幼児をかかえた教職員が協力して共同保育を開始したのが発展して、今日の朱い実保育園、風の子保育園につながっている。

図2-1-3 に戻ろう。若い層に目を転じて、30 代以下の年齢層を見たとき、男女の差、職員と教員との差は目立たなくなる。「子どもあり」の割合は30 歳代でも男性で4 割、女性で3 割前後であり、一様に「少子化」している。この世代が加齢した場合も、現在の50 代、60 代のような「子どもあり」のレベルに到達するとは考えにくい。社会全体をおおう「少子化」の流れは、京都大学にも顕著に現れている。とりわけ目を引くのは、30 代の男性教員の高い有配偶率と低い「子どもあり」の割合とのギャップである。図2-1-1 について、教員は意外に「早婚」だと述べたが、早婚は出産には結びついていない。結婚しても出産をコントロールすることで家庭と研究との調整を図るという女性教員のとってきた戦略を、若い世代では男性教員も実行するようになったのだろうか。次世代の研究者の育成をめざすとき、注目しなければならない点である。

2.1.3. 家庭における性別分業

では、配偶者をもった教職員は、どのような家庭生活を送っているのだろうか。ここでは家庭における性別分業に焦点を絞って見てみよう。

配偶者の職業は、性別による差が決定的に大きい。図2-1-4 は配偶者のいる男女教職員の配偶者の職業を、年齢別に示したものである。基礎集計表のQ8 によると、男性職員の妻の41.4%、男性教員の妻の53.3%が無職であるのに対し、女性教職員の夫の90%以上は有職であるが、その違いがグラフにもはっきりと示されている。女性教職員の方が別居婚になりやすいのも、配偶者も有職で、互いに勤務地に拘束されるためであろう。同じ京都大学に働く同僚であっても、男性は半分近くが性別分業型の家族を形成しており、女性は結婚していないか、共働き型の家族を形成している。

とはいえ、今述べたことを裏返すと、男性教職員でも残りの半分は共働きだということである。男性職員の28.9%、男性教員の23.3%の妻は常勤で就業しており、女性の同僚と同様のフルタイム共働き家族であることを見逃してはならない。女性教職員が共働きの困難を抱えていると言うなら、男性教職員の4 人に1 人はそうした女性の夫としての立場なのである。さらに職員の29.3%、教員の22.0%の妻は、パートタイムなどの非常勤就業をしている。

妻の職業分布には、男性職員と男性教員との間にも違いがある。一般に日本の女性の生涯の働き方は、M字型を描くことが知られている。学卒後は7 割の女性が働き、結婚や出産によっていったん多くが家庭に入るものの、子どもが手を離れるようになると再び働き出すのである。再就職はかなりの割合で非常勤やパートタイムという勤務形態になる。図2-1-4 の(1)と(2)では、M字の最初のピーク以降が描かれたかたちになっているが、45~49 歳層で7 割に届く全国平均に比べると、京都大学教職員の妻たちは2 つ目の山が低い。大卒などの高学歴女性では2 つ目の山ができず、急降下の後は横這いの「キリン型」になるという特徴があるが、京都大学の男性教職員の妻、とりわけ男性教員の妻はその典型的なパターンを示している。男性職員の妻は常勤職が多いという特徴があり、公務員家族型と言うこともできる。

全体として見ると、男女教職員の中で、もっとも典型的な性別分業型家族に暮らしているのは男性教員である。40 代以上では約6 割の男性教員が家事に専念する妻をもっている。

とはいえ男性教員はけっこう自分でも育児をしてきたことが後で明らかになるが。これに対し同年齢層の男性職員では、妻が主婦である割合は4 割ほどであり、40 代までは3 割の妻が常勤職で働いている。男性どうしだからと言って、同じような家庭生活を営んでいるとは限らないことに注意しよう。


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もうひとつ、図2-1-4 で注目すべきと思われるのは、夫が非常勤やパートタイムの女性教職員のケースである。特に若い世代の女性教員に特徴的に見られ、20 代後半から30 代前半までの女性教員の4 人に1 人は、配偶者が非常勤か無職である。女性研究者は同業者と結婚する場合が多いので、研究者の就職難の影響ではないかと推察される。ヨーロッパなどでは就職待ちの夫や「ボーイフレンド」を長年にわたって養い続ける女性研究者が珍しくないが、日本でもそうした状況が生まれつつあるのかもしれない。

2.2. 育児と介護

前節で、京都大学で働く女性教職員は、男性に比べ、結婚や出産による家族形成をスムーズに行っていないという状況が明らかになった。また、女性たちばかりでなく、30 代以下の若い世代では、性別にかかわらず同様の状況を抱えているようだ。もちろん、結婚して子どもをもつことが唯一の望ましい人生のパターンとは言えず、それ以外の人生を自ら選択しているケースも少なくないだろうが、もしも家族をもつ人生を望みながら実現できない環境があるとすれば、是正しなくてはならない。家族形成を難しくするのは、いったいどのような要因なのだろうか。

本節では、家庭生活と仕事との軋轢を特に強める場面として、育児と介護をとりあげ、京都大学で働く教職員が、そのような場面にいかに対処してきたのかを、性別、および教職員の別に注目しながら見ていこう。

2.2.1. 育児責任をもつ教職員

すでに見たように、京都大学の教職員では、子どものいる割合は男性の方が高い。育児というと女性の問題のように思われがちだが、京都大学の教職員に関するかぎり、ある意味では男性の方が育児をしてきたと言えるかもしれない。しかし、どのようにしてきたのかが問題だろう。

子どもに対する育児責任は、子どもの年齢に大きく依存する。Q10 は子どもの年齢を子どもの通っている学校によって尋ねたものである。ケアという観点からは小学校入学前までがもっとも大変で、小学生でも放課後放っておくわけにはいかず、中学生・高校生になると精神面のケアや受験勉強への配慮、それに弁当作りなどが必要になる。大学生になると経済的負担は最大だが、家を離れる場合もあり、ケアという面からは一段落と考えられよう。育児責任は子どもの年齢によって、重さや内容が変化する。

それぞれの年齢層の子どもがいる男女教職員の割合を示したのが図2-2-1 である。小学生未満の子どもがいる割合がもっとも高いのは、性別、教職員の別によらず30 代後半である。小学生がいる割合のピークは、ちょうど子どもの年齢差分だけずれて、40 代前半になる。小学校未満もしくは小学生の子どもがいる、子どもにもっとも手のかかる時期は30 代から女性では40 代前半まで、男性では40 代後半までということになろう。それに対し、思春期の子どもに精神的に向き合うことがもっとも必要な時期は、40 代から50 代前半までにあたる。ちょうど仕事ももっとも脂ののった時期が、子育ての最盛期でもある。これだけの割合の教職員がそれぞれの段階の育児責任を負っているということを認識しておかねばならない。

2.2.2. 育児のしかた

では、京都大学の教職員は、どのように育児を行ってきたのだろうか。Q11 では、子どものある人に対して、複数回答で育児のしかたを尋ねた。基礎集計表を見ると、回答には性別による違いが際だっている。男性では、職員・教員とも、第1 位は「おもに配偶者が育児」、第2 位は「夫婦で協力して育児」、第3 位は「保育所を利用」となっている。これに対し、女性の場合は、第1位「保育所を利用」、第2 位「自分が仕事・学習を続けながら育児」が、職員・教員に共通している。

しかし男性の場合、配偶者の職業によって、育児のしかたは大きく異なる(図2-2-2(1)・(2))。自分自身が職員であるか教員であるかよりも、妻が「常勤」か「非常勤・パートタイム」か「無職」かによって、はるかに強く男性の育児体験は規定される。妻が無職の場合は第1 位「おもに配偶者が育児」が突出する。妻が常勤の場合は、本人が職員であれば第1 位「保育所を利用」、第2 位「夫婦で協力して育児」、第3 位「配偶者が育児休業制度を利用」に第4位「親の協力を得て育児」が続く。本人が教員であれば、第1 位と第2 位が逆転し、第3 位に「親の協力」が入る。

しかしさらに詳細に見ると、同じく妻が常勤職であっても、男性職員と男性教員の育児経験は同じではない。男性職員の家庭では「保育所」と「配偶者の育児休業」というフォーマルな制度をよく活用している。よく「夫婦で協力」もしており、典型的な共働きの育児と言えよう。これに対し、共働きの男性教員の家庭では、「保育所」の利用も第1 位ではなく、「育児休業」ははるかに重要性が低い。そのかわり、配偶者と自分自身が「仕事・学習を続けながら育児」しており、親にもよく頼っている。育児期には夫婦とも安定した職についておらず、フォーマルな制度を利用しにくい、もしくは利用するのに適さない生活形態だった様子がうかがえる。共働き型の多い男性職員、フォーマルな制度を利用しにくいだけ子育ての苦労(と喜び)を共にしてきた男性教員――他の業種と比べると、大学は男性が比較的よく子どもに関わる職場なのではないだろうか。

女性教職員の場合は配偶者の職業による分類を行う意味があまりないので、職員と教員を比較してみよう(図2-2-2(3))。妻が働いている男性職員と男性教員との間に見られたのと同様の違いがここでも見られる。保育所以外のフォーマルな制度、すなわち育児休業や学童保育は、女性職員の育児にはおおいに活用されているが、女性教員の場合にはそれほどではなく、そのかわり「家政婦やベビーシッターなどを雇用」「自分が退職・退学・休学して育児」「配偶者が仕事・学習を続けながら育児」「知人や近所の人の協力を得て育児」などの多様な手段を駆使している。大学院からポスドク期、研究のかたわら非常勤講師をかけもちするような生活を送る若い研究者の生活は、柔軟である反面、規則性が無く、十分な収入も無い。フォ� �マルな育児支援制度を使いにくい研究者の育児は、インフォーマルなネットワークに頼ったり、さまざまな場当たり的方法をくふうするしかないのである。

2.2.3. 育児休業

京都大学の育児休業制度は、配偶者が専業主婦(夫)である場合を除いて、性別、職員・教員の別によらず、また非常勤教職員であっても取得できる原則である4。しかし前節でも見たように、実際にはほとんど女性職員しか利用していない。本調査とは別に、育児休業を取得した常勤職員についての資料を人事部より提供していただき、整理したのが表2-2-1 である。ただし補佐員の育休取得実績については部局が把握しているだけなので、この表には含まれていない。制度発足の1991 年以来2007 年2 月末までに、女性職員241 件、女性教員8 件、男性職員6 件、男性教員3 件、計258 件の取得があった。取得日数は最短8 日から制度の上限に近い1039 日まであり、もっとも多いのは1 年前後である(図2-2-3)。育児休業取得件数の推移をグラフにした図2-2-4 が示しているように、育児休業を取得する人は年々急速に増えている。男性の利用は2001 年に初めて出て以来、ほぼ毎年2 人くらいずつ続いている。

しかし、全体としてみれば育児休業を取得する者の大半は女性職員であるという事実は変わらない。育児休業制度はなぜ男性や女性教員には利用されないのだろうか。Q32~Q37 では育児休業制度の利用実態に焦点を絞って、背景的事情を探ってみた。


4 育児休業制度とは、平成3 年制定、平成15 年改正の育児・介護休業法を根拠とする制度であり、京都大学においては独自の規程を定めて運用している。常勤職員(特定有期雇用教職員含む)は子どもが3 歳に達する日まで、非常勤職員(特定の条件を満たした有期雇用教職員及び時間雇用教職員)は子どもが1 歳に達する日まで(特別な事情がある場合のみ1 歳半まで)取得可能であり、勤務時間を短縮する部分休業を取得することもできる。休業中、給与は支給されないが、雇用保険、文部科学省共済組合から手当金、給付金が支給される。すべての教職員が取得できる原則だが、子どもの親で教職員以外の者が養育することができると認められる場合等は、労使協定によって適用除外とされる。つまり妻が専業主婦である男性教職員は、通常の場合は適用除外とされることとなる(制度の詳細については、京都大学女性研究者支援センターのホームページ に解説がある)。なお、非常勤職員(有期雇用教職員及び時間雇用教職員)が育休を取得するためには、以下の3 つの要件を満たすことが必要である。(1)1 年以上雇用されていること、(2)育休申し出から1 年以内に退職する者でないこと、(3)育児休業満了時(子が1 歳に達した日)から1 年以上の継続雇用が明らかな者、(4)1 週間の所定勤務日数が3 日以上。年度末でいったん任期が満了するので、年度末をはさんで育休を取得する場合は年度ごとに申請が必要。

まずQ32 では、子どものいる人に対して、京都大学で育休を取得したかどうかを尋ねている。取得したと回答したのは、女性職員では40 人で、子どもがいる女性職員の28%にあたるが、女性教員では3 人のみで、男性ではさらに少なく、男性職員は2 人、男性教員は1 人にすぎない。


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育休を取得した40 人の女性職員の内訳を調べると、常勤職員37 人、看護師3 人で、補佐員は0 人である。人事部データによると育休取得者全体のちょうど3 分の1 にあたる86 人は看護師だが(表2-2-1)、本調査では看護師の回答率が低いため、このような結果になっている。女性の常勤職員では、子どもがいるのに京都大学で育休を取得していない者44 人のうち、「制度がなかった」が36 人で大半を占める。すなわち制度が設けられてからは、子どもを産んだ常勤女性職員のほとんどが育休を取得している。常勤女性職員が育休を取得した主な理由は「自分で育児を行いたかった」(76%)と「職場の理解が得られた」(70%)であり、「自分以外の保育者を確保できなかった」という逼迫した事情は22%に留まる(Q33)。常勤女性職員の育休取得後の勤務状況は「取得前と同じ職務を継続」が81%を占めるが、他方、部署や職務が変わったケースもあり、「昇進が遅れた」とする者も11%ある(Q34)。育休を取得したことを理由とする不利益な扱いをしてはならないことは法律に定められている。これらが問題となるようなケースであるのかどうかは、個別に検討しないと分からない。子どものいる補佐員は44 人いるが、京都大学で育休を取ったものはいない。同じ女性職員でも、常勤か補佐員かによって、育休の取得状況は全く異なる。補佐員に育休を取得しなかった理由を尋ねたQ35 では、「制度がなかった」が17 人、「必要性を感じなかった」「自分以外の保育者の確保ができた」がそれぞれ6 人であり、「制度はあったが取得できる環境ではなかった」が1 人、あとは無回答である。出産退職する、育児が一段落したときに就職した、などの働き方が多い補佐員では、該当する時期には京都大学で仕事に就いていなかった者が少なくないからであろうか。

では、育休をほとんど取得しない男性や女性教員に目を転じてみよう。これらのカテゴリーに属するわずかな取得者の内訳を見ると、男性職員は常勤2 人、男性教員は理系教員1 人、女性教員は理系常勤、文系常勤、非常勤が各1 人である。育休を取得した理由として、理系男性教員は「自分以外の保育者を確保できなかった」を挙げたが、この1 人を除いて、男女とも全員が「自分で育児を行いたかった」という理由を挙げていることが注目される。先に見た女性職員の場合も含め、育休を取得するのは、他に養育する人がいないからという消極的理由より、自分で育児をしたいという積極的理由によっているのである。親密な人々と共にバランスのとれた生活を送る権利のための育休と考えれば、妻が主婦である男性を適用除外にする理由はない、という問題提起がここから生じてくる。

では圧倒的に多数の男性や女性教員が育休を取得しなかった理由は何なのだろうか。男性では、職員でも教員でも「自分以外の保育者の確保ができた」のと「必要性を感じなかった」のが主な理由である(Q35)。Q11 によれば「おもに配偶者が育児」「配偶者が退職・退学・休学して育児」、あるいは妻が働いている場合でも「配偶者が育児休業制度を利用」「配偶者が仕事・学習を続けながら育児」という状況を意味していると考えられる。その反面、「制度はあったが取得できる環境ではなかった」を選択した男性も、職員・教員共通して約10%いる。これらの男性の属性を見ると、教員15 人中8 人、職員24 人中7 人は妻が無職である。妻が主婦であっても育休を取りたいと考えている男性はいる。15 人の教員のうちの3 人は別居婚であり、育休を取らなければ育児に関わりにくい状況もあったようだ。育休の適用除外の条件の見直しも必要なのではないだろうか。

男性どうしでも、職員と教員とで違いが出た回答もあった。男性教員では「仕事を中断したくなかった」という理由を挙げた人が21%いる。この「仕事を中断したくなかった」という理由は、女性教員が育休を取得しなかった最大の理由であり、実に36%がそう回答している。男女を問わず研究者という職種は、仕事の中断を嫌うという強い傾向がある。同じ女性でも職員と教員が育休に対してまったく異なる選択をするのはこのためであった。ワークライフバランスをめざす施策の中で、育休は中心的な位置にあるが、必ずしも万能の方策ではないのではないかと考えさせる契機がここにある。職種によっては一定期間の休業より、仕事を中断せずに育児と両立できるような条件づくりをするほうが、当事者のニーズに合う。大学の研究職� ��明らかにそうした職種であり、職員でも希望によってはそうした働き方ができてしかるべきだろう。

2.2.4. 介護のしかた

育児と違い、介護の経験がある者は、年齢が上昇するほど増加する。Q12 の回答を年齢とクロスさせると、50 歳以上の年齢層では、男性教員の29%、男性職員の40%、女性教員の74%、女性職員の64%が介護を経験している。介護期間は半年未満から5 年以上までさまざまである(図2-2-5)。男性でも3 人に1 人以上が経験するというのは、高い割合と言うべきだろう。職業生活の終わり近い時期に介護という問題に出会うのは、性別に関わらず、いまや例外的な事態ではまったくない。女性では介護経験者はさらに多く、6 割以上にのぼる。京都大学の女性教職員は配偶者や子どもを持たないことで家庭と仕事との軋轢を回避してきた傾向があるが、介護はそれよりずっと引き受けている。子どもがいない人生は選べても、親がいない人生は選べない。京都大学の女性教職員にとって、介護は人生の中で育児よりも結婚よりも経験しやすい出来事なのである。

では介護の対象となっているのは誰だろう。Q13 の回答を見ると、男女とも、また教職員とも、「自分の親」が5 割から6 割程度を占める。次が「配偶者の親」であり、2 割台となる。この点に性別による差は見られない。女性は嫁として夫の親を介護するという規範があったが、そのような非対称はここでの回答には表れていない。ただし、そもそも「介護経験あり」を選択した割合には大きな男女差があったので、介護対象者は双系的になっても、介護する側が女性に偏っているのは変わらない。また女性職員の場合は介護対象者として「その他」の割合が高いのが目に付くが、それが誰なのかはここでは尋ねていない。

Q14 では主に介護した人は誰か、Q15 では介護対象者とは同居か別居か尋ねている。介護では、育児と違い、対象者と同居していない場合も少なくなく、兄弟姉妹の誰かが主に介護している場合にも手伝うことがあるからである。この点に関して、教職員男女が経験した介護はどのようなタイプに属するのか、整理したのが図2-2-6 である。男性職員では同居しているおそらく自分か妻の親を自分と妻が主になって介護したケースが多いが、女性職員ではまったく反対に、別居していて誰か別の人が主たる介護者になっているところへ手伝いに行ったケースが多い。教員は男女ともその中間だが、女性のほうが別居でも手伝いに行く割合が高い。京都大学の教職員では女性のほうが独身である割合が高いこと、婚出していても女性のほうが介護役割を引き受ける状況になりやすいことなどが、性別による違いの原因であろうか。また男性教員のほうが男性職員より同居の割合が低いのは、教員のほうが求職のために遠距離移動をしたからだと思われる。

介護では育児とは違って、遠方へ通う場合も珍しくない。2 つのグラフを比較すれば分かるように、同居でなくても「自分または配偶者」が主たる介護者である場合がかなりあるようだ。京都大学の教職員、特に教員は地元出身者は少ないので、遠方に別居している親を介護しなくてはならない場合が多いことに、特に配慮しなくてはならない。

図2-2-7 に示したQ17 の「主な介護の方法」を見ると、男女とも多様な方法を駆使して介護という状況を乗り切っていることが分かる。性別による差がもっともはっきり表れたのは、予想されることではあるが、「おもに配偶者が介護」の割合が男性では2 割弱あるのに、女性では「おもに配偶者が介護」は皆無に近いことである。主たる介護者が「自分または配偶者」であっても、実質的には「おもに配偶者が介護」である場合も少なくないだろう。「夫婦で協力して介護」を選んだ割合も、男性は25%、女性は12%と、女性は男性の半分にしかならない。男性は妻を巻き込むが、妻は夫を巻き込まないという違いがあるのではないか。同じように「介護をした」と言っても、その内実には性別による違いがある。「自分が仕事・学習を続けながら介護」の割合は女性が男性の倍近く、仕事を続けながら実質的な介護も行うという困難な状況は、女性の方が経験している。

また、女性では「その他家族と協力して介護」や「入院中・入所中に付き添いや通いで世話」の割合が高い。別居や「主たる介護者」が自分ではない場合にも手伝いに通う状況になりやすいことを反映しているのだろう。

育児休業と違って、介護休業はほとんど利用されていない。この点については育休の場合のように教員と職員の間で大きな差が出ることもない。介護休業が利用しにくい理由は何か、どのような制度なら利用しやすいのか、真剣に検討する必要がある。

2.3. 昇進と性別

京都大学の教職員の職階と性別については、第1 章で見たとおり、性別による大きな差が存在する。職階が高くなるほど女性の割合は減少する。反対に、職階の低い層や非常勤職では女性の割合が高い。ここでは、教職員の昇進のパターンに性別による違いがあるのかどうかを検討してみよう。この分析では昇進の可能性のある常勤教職員に分析対象を限定せざるをえないが、たとえば補佐員のように昇進のない非常勤職に女性が多いことがそもそも大きなバイアスである。また、京都大学に留まらずに転出する割合にも性別による差があると言われている。それらの問題についてはまた別の分析が必要だという限界を自覚しつつ、ここでは今できる分析を進めよう。


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2.3.1. 教員の採用と昇進

昇進に関連する質問は、教員についてはQ42 とQ43、職員についてはQ50 である。Q42 では男女常勤教員に対して、京都大学助手、講師、助教授、教授に採用された、もしくは昇進した年齢を尋ねている。助手に採用された後、他大学に転出し、また京都大学に教授として採用されたというようなケースもなかには含まれる。

表2-3-1 は職階ごとに採用・昇進のあった女性教員、男性教員の総数と、採用・昇進年齢の平均、標準偏差、最小値、最大値を示したものである。講師については男女とも、教授については女性の該当数がそもそも少ないことに注意が必要である。それぞれの職に就いた平均年齢は教授以外では女性の方が高い。助手では4.3 歳、助教授では2.3 歳の男女差がある。

しかし、より興味深いのは採用・昇進年齢の分布である。図2-3-2 では、ある地位に採用・昇進のあった女性教員、男性教員それぞれの総数を100%として、年齢ごとの採用・昇進件数の分布を示した。数が少なすぎる講師を除いて、男性では「昇進適齢期」とでも呼ぶべきピークが見出される。助手では27~30 歳、助教授では34~39 歳、教授では45~49 歳前後がそれに当たる。それに対して女性では、助手では男性と同じ時期に一つのピークがあるものの、30 代半ばにもう一つのピークがあり、30 代後半から40 代初めという、男性はめったに助手にならない時期に採用された一群の女性たちがいる。助教授でもやはり男性のピークは済んだ40 代半ばに、女性の一つの山があるようだ。女性の採用や昇進は男性とは異なる論理で行われているのではないかと推察させる。この傾向が消滅する方向にあるのかどうかを検証するため、現在50 歳未満の年齢層に限って助手についての分析をやり直したところ、35 歳のピークは無くなったが、30 代後半から40 代前半までに採用された女性たちのケースは消えなかった。

女性教官懇話会(1984)では、当時の女性教員は男性教員より「学部卒業後現職までの年数」が平均して長く、散らばりも大きいことを発見し、「男性社会」に存在する「採用・昇格等に至る年限ないし年齢に関する社会的通念」の適用から女性は排除されていると指摘している。それから四半世紀が経過した今回の調査でも、同じ現象が見出されたということになる。

では、女性はなぜ男性に適用される「社会的通念」から排除されるのだろうか。単なる偏見のためだろうか、それとも女性に作用しやすい社会的条件、たとえばよく言われるように家庭生活の負担が原因なのだろうか。本調査では家庭生活について、配偶者の有無(Q6)、子どもの有無(Q9)、介護経験の有無(Q12)について情報を得ている。介護経験のある人が増加するのは50歳以上なので、ここでは昇進の時期に関係しそうな前2 者と昇進年齢との関連を調べてみよう。図2-3-3 と図2-3-4 を見ると、配偶者の有無と子どもの有無はいずれも男性の昇進にはほとんど影響を及ぼしていないと言ってよかろう。また配偶者のいない女性、子どものいない女性は、いずれもこれら男性と遜色ないキャリアパターンを描いている。このパターンから唯一はずれるのが「配偶者あり」の女性と「子どもあり」の女性で、助手の段階では「配偶者あり」は約5 年、「子どもあり」は8 年ほどの後れをとっている。しかし子どもの有無に関するかぎり、ギャップは次第に縮まっていくようで、教授昇進時点では違いはまったく無くなっている。

ここでの知見の意味づけは簡単ではない。家庭をもつことが女性研究者のキャリア形成を後らせるのは、残念ながら事実のようだ。多くの女性研究者がかつては結婚を避け、その後は子どもをもつことを避けてきたのは、その意味では合理的選択であった。反面、一時期さえ乗り越えれば、子どもの負担は次第に軽減されて、結局は研究者としての達成になんら影響を与えないとも言える。しかし、それは教授になれた者のみについての結論なのかもしれない。そこで先行研究を参照して、京都大学以外の研究者のケースも考慮して、ここでの知見の意味を考え直してみよう。

「家庭負担からの回復」効果とも呼ぶべき家族持ちの女性研究者の負担軽減後の活躍は、先行研究では塩田・猿橋編(1984)の、研究者の業績の分析で指摘されている。レフェリーのある雑誌への発表論文数については、「子どものいない女性の業績の方が49 才まで高いといえる」が、「50~54 才の間で子どものいる人のほうが論文数が多くなる」(p.39)。「子どものいない女性の業績は総体的に男性との差が余りみられない」(p.39)という点も、我々の知見に通じる。文科系の女性の著書数については「若い時は子どもの無い方が冊数が多く、45 才で逆転して今度は子どものある方が冊数が多くなる」(p.41)という。しかし「業績」と「地位」とは別のことである。地位に対する家庭経験の効果は、原編(1999)で検討されているが、結婚や子どもがいることの効果は女性では観察されず、すなわち女性は女性であるだけで家庭的条件とは関係なく男性より地位が劣り、男性では未婚男性の地位が既婚男性より低かった(p.149-150)。我々の知見とはまったく異なっている。この10 年間で大学の人事政策が変化して、女性でも昇進させるようになった時期にちょうど子どもの負担も軽減していて昇進したのが現在の女性教授たちなのだろうか。

なおQ43 では、京都大学の管理職への就任と、国内学会の役員などへの就任の年齢について尋ねている。しかし、京都大学の管理職に就任した女性教員は、大学の歴史を通じて、2003 年に研究科長に就任した1 人しかいない。理事に就いた女性はまだ存在しない。分析以前のアンバランスである。国内外学会役員の初経験年齢は女性の方が男性より平均して1.6 歳若い。

2.3.2. 職員の昇進

では次に、男女常勤職員について同じ分析をしてみよう。ただし職員と教員とでは職階構造が異なることに注意しないとならない。第1 章の図1-1-1 がよく表しているように、教員では助手、助教授・講師、教授の人数がほぼ1000 人ずつでほとんど違わない。しかし職員では、課長補佐級から人数が絞り込まれる。上位のポストの数そのものが少ない職員では、昇進はより熾烈な競争とならざるをえない。

Q50 では、主任、掛長級、課長補佐級、部長・課長級への昇進年齢を尋ねている。表2-3-2 にあるように、平均昇進年齢は、主任では1.7 年、掛長級では5.1 年、女性が遅い。課長補佐級では反対に女性が1.7 年早い。

図2-3-5 では昇進年齢の分布を示している。男性については、主任、掛長級では明瞭な、課長補佐級では緩やかな「適齢期」が見出されるが、部長・課長級ではピークは無い。女性については、主任では男性と同じ時期にピークがあるが、女性教員の助手採用と同じように、ピークより高い年齢で昇進した一群のケースが存在する。掛長級では、ピーク自体が女性と男性でずれており、女性のピークはより高い年齢にある。しかもピークを過ぎてからも昇進するケースがしばらく続く。職員のキャリアパターンの男女格差は、掛長級の段階で目立ってくる。主任と掛長級では人数はむしろ後者のほうが多いのに、いったいなぜなのだろうか。

課長補佐級は女性の昇進の数そのものが少ないが、男性のピークの後ばかりでなく、その前に若くて昇進した女性たちがいるのが目を引く。平均昇進年齢を下げている「抜擢」のケースであろうか。部長・課長級では男性にもピークが存在しないうえ、女性の数も非常に少ないので分析しにくいが、男性であってもまったく無理のない年齢での昇進であるとは言える。

まとめると、職員の女性たちは、主任昇進時には「採用・昇格に関する社会的通念」の適用を受けているようだが例外もあり、それ以上の地位については男性とは異なる扱いを受けている様子がうかがえる。現在50 歳未満の年齢層に限ってみても、ピーク以降に主任に昇進した女性たちは消えないので、職員組織内での女性の男性と異なる位置づけが、消滅の方向にあるとも言えない。

では、女性職員の昇進のパターンを、男性と違わせている要因は何だろうか。教員の場合と同様、家庭要因との関連を見てみよう。図2-3-6 は配偶者の有無、図2-3-7 は子どもの有無と各階層への平均昇進年齢との関連を示したものである。配偶者と子どもいずれの有無も男性の昇進パターンに影響を与えないのは、教員の場合と変わらない。子どもや配偶者のいない女性も、男性にほぼ近いパターンを描く。女性も単身であれば、少なくとも昇進した人に限っては、男性と同じペースで階段を上がっている。

これらの人々と、主任昇進では1.5~2.5 年ほど、掛長級昇進では5 年あまりの差をつけられてしまうのが、配偶者や子どものいる女性である。配偶者の有無よりも子どもの有無による差の方が大きいので、育児の負担が本質的なのだろう。表2-2-1 で見たように、主任のときに育児休業をとった女性職員は、掛員のときにとったよりもむしろ多かった。それが掛長級への昇進を遅らせたとしても、休業期間以上の遅れが出ている。育休期間が終わっても、子どもが小さいうちは少しゆっくり仕事をしたいと本人が希望したケースもあるかもしれない。しかしまわりが最初から子どものいる女性職員を昇進の対象外のように考えて、要職に就けないということはないのだろうか。

しかし家庭負担による差は、課長補佐級に昇進するケースではだいぶ縮まる。正確に言うと、昇進した人々を見るかぎり、子どもや配偶者のいる女性たちの昇進年齢は、男性の昇進年齢とあまり違わなくなる。他方、家庭負担のない女性は、男性よりも一層早く出世している。女性にも管理職への登用の機会が開かれたとき、男性同様にキャリアを積んできた女性たちがまずその機会を得たということだろうか。部長・課長級に昇進した女性はあまりに少ないが、子どもがいることはもはや障害にはなっていない。


教員と比較して見ると、職員と教員という職種の違いを超えて、家庭生活のキャリアへの影響のしかたの類似性に気づく。子どもや配偶者のある女性の場合、中盤までは特に子どものためにキャリア形成が後れるが、その時期を乗り越えてさらに上位の職位につく者には、もはや家庭の事情は影響していない。「家庭負担からの回復」効果は、昇進する女性職員の経歴にも見出せる。

ただし、女性職員と女性教員を比較すると、家庭要因のキャリアへの影響の大きさには違いがあるようだ。子どもや配偶者のいる女性が、男性やその他の女性の描く「標準的」な昇進パターンから後れる度合いは、教員の方が甚だしい。この違いはなぜ生じるのだろうか。原因の解明は難しいが、育児のしかたについて見たように、保育所、育児休業、学童保育など、フォーマルな育児支援制度を活用しやすい職員は、そうした制度が利用しにくく不安定な手段に頼る研究者より、安心して休業し速やかに職場復帰できるのではなかろうか。女性研究者にとっては、就職年齢が遅いという研究者特有の事情が、就職期と出産期の重複という事態をうみ、いっそう就職を後らせ、そのことにより職場および行政からの育児支援も受けにくく� ��るという悪循環を生じさせて、深刻なキャリア形成への影響を与えているものと推測される。

とはいえ、昇進した人たちのみについての分析は、上位ポストの数の制限により昇進できる人たちが限られている職員については、教員について以上に限界がある。次にはなかなか、あるいは全く昇進しない人々について見ていこう。

2.3.3. 昇進しない常勤教職員

ここまでの分析は、昇進した人々についての分析だったので、2 種類の人々を対象から逃してしまったことになる。一方は常勤職ではあるけれど昇進を経験しない人々、もう一方は昇進システムの埒外におかれた非常勤職の人々である。第1 章の図1-1-2 を見てほしい。たとえば教員では助手、職員では掛員等として留まり続ける常勤職の人々の細い帯が40 代・50 代あるいは60 代まで残っている。他方、教員では非常勤講師、職員では補佐員の太い帯がある。非常勤講師の多くは本務校をもっているので、教員では「研究員」や「その他」として30 代後半以降も留まり続ける人々に注目したほうがより適切かもしれない。

常勤職だが昇進しないケースについては、女性教員についての先行研究でも指摘がある。「ライフコースの初期に女性が補佐員、副手、助手などと呼ばれるいわゆる二次研究者的な職種に押し込まれる、という問題がある。」「二次研究者として最初に位置づけられると、そこから抜け出すには長い年月がかかったり、人並みはずれた努力や業績などが必要であることが多い。」(原編1999: 144, 138)このような問題は京都大学にもあるのだろうか。

図2-3-8 は現在助手の人たちについて、助手に採用されてからの経過年数を求めたものである。3 年くらいまでの人々が多いが、それ以上のはるかに長い期間、助手を続けている人たちも存在し、最長は30 年以上であった。現在の助手のうち10 年以上この地位に留まっている人(1 人を除いて全員が理系)の割合は女性では17%、男性では20%になる。女性に偏った現象ではなく、性別によらず注目すべき問題である。しかし、さらに検討すると、性別による違いもあるらしいことが見えてくる。男性は20 代から採用されている人がほとんどだが,女性は30 代後半以降に採用されている人が多いので、全員が現在45 歳以上である。助手に採用する理由が性別によって違うことがあるのだろうか。女性教官懇話会編(1996)は「女だから一生助手のポストにとどまっているものという考えで話をされる。女性の昇進については対象外という考えを学部長でさえも持っている。」「女性であるため、就職して10 年間くらいは研究・事務・経理・来客接待等すべての雑務を担わされ、研究の主目的から切り離された。」「一番不愉快だったのは、後輩が次々と昇進し、自分より上の位置に来たこと。そのような場合、男性であれば、その人の心情を考えて先に転出をはかるとか、配置を考えると思う。」という証言を紹介している。もっとも今日もそうした慣行が続いているのかどうかについては、さらに調査しないとならないが。

比較のために助教授についても同様に昇進からの経過年数を調べてみた。すると図2-3-8 のように、やはり長期間助教授で留まり続ける人たちは存在し、25 年になるケースもあった。ただし助教授では10 年以上のケースは男性だけで、男性助教授の19%を占める。女性の助教授が増加しだしたのはようやく1990 年代半ば以降のことにすぎないので、そもそもそのようなケースはまだ生じていないとも言える。

掛員への採用年齢を尋ねていないため、同じ分析を職員についてすることはできない。第1 章の図1-1-2 を見ると「掛員等」に属する人々は男女とも30 代後半から急減するが、50 代やそれ以降まで少数ながら残る。ここでは詳細の分析はできないが、長期にその地位に留まっている人も確かにいる。その代わり、ここでは主任について検討してみよう。主任に昇進しているが、その後、長期間にわたりその地位に留まり続ける人たちがいる。図2-3-9 は、現在主任の人について、主任に昇進してから現在までの経過年数を示したものである。教員の助手の場合と異なり、主任で留まり続けるのは明らかに女性の方が多い。10 年以上主任の地位に留まっている人は、男性では10%なのに対し、女性では22%と2 倍である。掛長級への昇進年齢には明らかに性別によって異なるパターンがあるのはすでに見たが、その裏側にあるのが、主任に長く留まり続ける女性たちの存在であった。昇進における性別格差は、おそらく教員より職員のほうが深刻だろう。これに対して教員では、第3 章第2 節で見るように、採用における性別格差が大きな問題である。

2.3.4. 女性補佐員の仕事と家庭

非常勤職員である補佐員は、京都大学の構成員全体の実に8.4%を占める存在である。職員の半数以上を占め、教授・助教授・講師・助手を合わせた常勤教員全体とほぼ釣り合う人数がいる。第1 章の図1-1-1 によりその規模を確かめてほしい。また第1 章の表1-1-2 にあるように、本部よりも研究科・学部や研究所などに主に配置されており、すなわち学生や教員とのインターフェイスの部分を担っている職員の多くが補佐員である。しかもその74.2%が女性であり、京都大学の女性構成員全体の24.0%、4人に1 人は補佐員だということになる。これほどの大きな割合の女性たちが昇進が無く雇用も不安定で所得面でも大きな格差のある地位に置かれていることは、契約により合法的であるとはいえ、男女共同参画という観点からはやはり看過できない5。補佐員には男性もいるが、その年齢層は20 代が中心でせいぜい30 代前半までに集中しているのに対し、女性補佐員は40 代以上が38%にもなる。勤続年数が常勤職員並みに長い女性も少なくないのは周知のとおりである。非正規雇用と正規雇用との格差、および非正規雇用が女性に偏っているという現実は、京都大学のみならず日本社会一般の問題だが、それゆえにこそ社会の"知恵袋"である大学が率先してその問題の解決法を見つけだし、世に示していくことが重要ではないかと思われる。

では京都大学の女性構成員の4 分の1 を占める女性補佐員は、どのような特徴をもっているのだろうか。図2-3-10 では配偶者のいる割合(Q6)、図2-3-11 では子どものいる割合(Q9)を年齢別で示した。比較のため常勤女性職員と対比したところ、配偶者のいる割合は30 歳以上では補佐員のほうが低く、子どものいる割合はほとんどの年齢層でほぼ同じだが、50 代だけは補佐員のほうがかなり低い。非正規雇用は主婦の家計補助という世間の思い込みに反して、自らが家計維持者である場合も少なくないようだ。

女性補佐員と女性常勤職員との違いは、育児のしかたにも表れる(Q11)。常勤職員は育児休業制度や保育所・学童保育を利用して「自分が仕事・学習を続けながら育児」してきたのに対し、補佐員で育休の利用者はほとんどおらず、反対に常勤では1 人しかない「自分が退職・退学・休学して育児」が32%もいる。いったん退職して育児に専念した時期を経て、補佐員として再就職した人たちであろう。他方、保育所を利用して「自分が仕事・学習を続けながら育児」してきた女性補佐員も、常勤より割合は下がるとはいえ、34%いる。このうちどのだけが京都大学でのことかは本調査からは分からないが。また、本調査には表れないが、若年の補佐員のうちかなりの部分は結婚や出産により京都大学を去っていく。

介護を経験した割合は、女性補佐員と女性常勤職員との間に大きな違いはない(19%と23%)。ただし介護のしかたを見ると、補佐員では「主に介護した人」が「自分または配偶者」である割合が相対的に低く(Q14)、「その他の親族と協力して介護」したものが多い(Q17)。さきほど職員と教員の介護のしかたを比較したとき、女性職員は他の兄弟姉妹が主になって介護している場合にも手伝いに行っていると指摘したが、それは補佐員の特徴であった。

女性補佐員には仕事の面でも家庭生活の面でも、多様な経歴をもつ人々が含まれている。本調査で育児休業取得者が無かったが、常勤職員とほとんど同じように育児や介護の負担を負いながら、あるいは家計維持の責任も持ちながら仕事を続けていることに、目を向けなければならない。


5 正規の勤務時間が30 時間で、かつ2 年以上継続して雇用されている30 才~59 才の有期雇用職員又は時間雇用職員を対象とした事務系職員の学内募集を2005 年度から実施している。2005年度は女性2 名、2006 年度は女性2 名、男性1 名の採用を決定した。



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